仙台高等裁判所 平成2年(ネ)207号 判決 1992年9月29日
控訴人
熊谷春男
右訴訟代理人弁護士
松倉佳紀
鈴木宏一
松澤陽明
被控訴人
株式会社本山製作所
右代表者代表取締役
本山重幸
右訴訟代理人弁護士
三島卓郎
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の申立て
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 控訴人が被控訴人に対し雇用契約上の権利を有することを確認する。
3 被控訴人は控訴人に対し金三万〇七八三円及び昭和四八年二月二五日から毎月二五日限り各金六万三二七六円を支払え。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
5 3項につき仮執行宣言
二 被控訴人
主文同旨
第二当事者の主張
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加訂正し削除するほかは原判決の事実摘示及び本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。
一 原判決の訂正
1 原判決添付の別紙事実番号(二〇)以下の各欄を別紙のとおり改める。
2 同事実番号(五)の「四七・六・二七」を「四七・六・三〇」と改める。
3 同事実番号(一九)の「スト中の」(同別紙「暴行・暴言等の態様」欄の三枚目表一二行目)を削除する。
4 原判決三枚目裏九行目の「一〇月六日」を「一一月一〇日」に改める。
5 同二〇枚目表六行目の「四七年」を「四六年」と改める。
二 控訴人の補足的主張
被控訴人が、昭和四七年春闘に備えて、全金本山に対して当初から強硬姿勢で臨むこととし、場合によっては力の対決も辞さないと考えていたことは、全金本山に対し悪質な団交引き延ばしと敵意の表明以外の何ものでもない質問書(<証拠略>)なるものを提出してきたり、団交ルールなるものを一方的に押し付けてこれに固執し、団交拒否を図るなどした同年の春闘の経過、ガードマンを導入し、地労委の再三に亘るガードマン撤去の勧告を無視したうえ、警備業法ができるやガードマンを警備課員として雇用する等したことから明らかである。
そして、右ガードマンは、導入当初から全金本山組合員に対して暴力を振るっていたもので、被控訴人は、このようなガードマンを活用し、組合運動に対する妨害行為を禁じた仙台地裁昭和四七年五月二九日付仮処分決定に違背して全金本山の正当な組合活動を圧殺しようとしたものである。
控訴人は、被控訴人のこのような対決姿勢に対して、全金本山組合員と共に、不屈の抗議行動を展開せざるを得なかったものであって、菅野課長等に対する団交開催要求やガードマンの暴行についての抗議行動等は、被控訴人の右姿勢の反映であり、職制等の対応が適切を欠いた結果にほかならない。
被控訴人がとった、本件解雇通告をなすに至るまでの全金本山に対する対決姿勢を正しく認識し把握して控訴人の行為を評価すれば、本件解雇は被控訴人の強権的労務管理に抵抗する控訴人を嫌悪してなした不当労働行為というべきであり、仮にしからずとしても、被控訴人主張の解雇に相当する事由は存しないのであるから、解雇権の濫用に当たることは明らかである。
理由
一 当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべきものと判断する。
その理由は、次項のとおり付加訂正するほかは原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
右認定に反する(証拠略)は原判決採用証拠及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(証拠略)に照らして信用することはできず、その他の当審における新たな証拠調べの結果によるも、右認定判断を覆すに足りない。
二 原判決の付加訂正
1 原判決四四枚目裏七行目の「一時全闘争」を「一時金闘争」と改める。
2 同四七枚目裏四行目の「争いのない」の次に「甲第一〇一号証、」を、同七行目の「第七五号証、」の次に「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四五号証の一、二、第一六〇号証の一ないし六、第一六一号証、第一六二号証の一ないし三、第一六四号証、第一六五号証、第一六六号証の一、二、第一六七号証、第一六八号証の一ないし六、第一六九号証の一、二、第一七〇ないし第一七三号証、第一七四号証の一ないし五、」を、それぞれ加える。
3 同五〇枚目表七行目の「全金本山は、」の次に「団交等を要求して」を、同末行の「生じた。」の次に「入間川正治主任のように暴行を受け負傷して入院した者もあった。」を加える。
4 同五一枚目裏三行目の次に行を改め「なお成立に争いのない甲第四四号証の七ないし九によれば、昭和四七年春闘の際、日経連が機械金属企業の各社長に対し、回答時期の引き延ばしや賃上げの抑制等を内容とする、機械金属社長懇談会における申し合わせを周知させる通知を発していることが認められるけれども、被告の団交ルールの提案や春闘の進め方が、この日経連の指導に従ったことによるものでないことは前認定の経緯に照らして明らかである。」を加える。
5 同五二枚目表一行目の「第四〇号証、」の次に「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五一号証の二、三、第八四ないし第八六号証、乙第一七五号証の一ないし三二、第一七六号証の一ないし五、」を、それぞれ加える。
6 同裏末行の「「同月一六日には、」の次に「三浦鉄工所と仙塩製作所の自動車が全金本山組合員との長時間に亘る交渉の結果、自動車の出入りだけは認められたが、入出荷は遂に許されず、当日は」を加える。
7 同五四枚目裏五行目の「なお」から同八行目末尾までを「なお、右排除に際し、菅原徹らがガードマンに抵抗し、同人と相原善二が負傷した。」と改める。
8 同五五枚目表二行目から三行目にかけての「照らすと、」の次に、「前認定のとおり全金本山組合員に少数の負傷者を出したとはいえ、」を加える。
9 同裏八行目の「第七八号証の一、」の次に「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五三、第五四号証、第八八、第八九号証、第九二号証、乙第一五八号証の一、二、第一七七号証の一ないし五、」を加える。
10 同五七枚目裏五行目の「前記」から同六行目の「証拠はない。」までを「原告は、前記昭和四七年五月二三日ガードマンらが組合員らのデモに対して襲いかかったと主張し、前記甲第一四号証、成立に争いのない甲第四六号証、第四九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九四号証の記載中には、右主張に沿う部分があるが、信用することができない。却って、」と改める。
11 同五八枚目表二行目の「前記」から同三行目の「証拠はない。」までを「原告は、前記昭和四七年五月三一日の事件の際、ガードマンらが全金本山の組合集会を襲撃したと主張し、前記甲第一四号証、第四六号証、第四九号証、成立に争いのない甲第四八号証の記載中には右主張に沿う部分があるが、信用できない。当日はガードマンの要請に従って組合集会が中止され解散したため、この時点までは何らのトラブルもなかったことは前認定のとおりであって、全金本山組合員が傷害を負ったとしても、それは前認定の状況の下において救出に赴いたガードマンと右組合員との衝突によって生じたものと認められるから、右組合員の側が責められるべきものである。」と、同五行目の「証人」から同七行目の「振ったり、」までを「前記甲第四六号証、成立に争いのない甲第四七号証及び証人青柳充の証言中にはこれに沿う部分があるが、信用できない。もっとも、前掲証拠によれば、全金本山組合員が「朝ビラ」の配布終了後、被告の警告を無視し連日のように隊列を組んでジグザグデモをしながら正門から構内中央通路上を行進して来るのを、ガードマンが通行確保のため制止しようとしたことから、これに反発した全金本山組合員がガードマンに対して体当たりするなどしばしばガードマンと衝突し小競り合いとなり、双方に負傷者が続出したことが認められるが、右のようなデモ行進は、右中央通路の通行を妨害し、もって被告の企業活動を阻害するものにほかならないから、正当な組合活動とは評し難く、また仙台地裁が同庁昭和四七年(ヨ)第一八五号組合運動に対する妨害排除仮処分申請事件につき同年五月二九日付でなした仮処分命令(甲第一〇〇号証)において被告に対し妨害を禁じた「広場などの空地においてする」デモ行進にも該当しないものというべきであるから、そのデモ行進を規制しても右仮処分命令に違背するものということはできない。そして、他に、原告が本件解雇通告を受けるまでの間にガードマンが全金本山組合員に対して暴行を振るったりして、」と、それぞれ改める。
12 同五九枚目裏四行目の「暴行を加えていない」を「積極的に暴行を加えたというものではなく、全金本山組合員が構内中央通路の通行を妨害するような態様のデモ行進するのを制止しようとしたガードマンに対して、同組合員が体当たりを加えるなどの暴力的行為に出たことから両者の間で小競り合いとなったというものであって、むしろ同組合員側が責められるべきものであった」と改める。
13 同六〇枚目表七行目から八行目にかけての「原告は、」の次に「後記認定の別紙記載のとおり暴言した以外に、」を加える。
14 同裏六行目の「認められない」から「とおりである」までを「あったとしても、全金本山組合員側に責められるべき点のあったことは前記第二、一、9のとおりであるし、右暴言は必ずしもその主張の抗議の過程でのみなされたものではなく、その態様からして到底正当な争議行為の一環とも認め難いものである」と改める。
15 同六一枚目表四行目の「第一〇号証、」の次に「第五八、第五九号証、第六八号証の三、」を、同五行目の「第一一一」の次に「、第一一二」を、同八行目の「第六一号証、」の次に「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一七八号証の一、」を、それぞれ加え、同九行目の「一一月一〇日」から「数回」までを「一〇月六日に至るまで前後二一回」と改める。
16 同裏二行目全部を「乱したこと、なお控訴人は、別紙記載(二〇)の昭和四七年九月一二日午前九時五分ころも、無断で職場を離脱して、他の全金本山組合員と共に、製造二課の石垣課長が同課管理室から出るのを阻止し、その業務を妨害していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。しかしながら、別紙記載(二二)の昭和四七年一一月一〇日の職場離脱については、これを認めるに足りる証拠はない。」と改め、同七行目の次に行を改め「なお前記甲第一四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四、第五号証、第三三号証によれば、原告は、別紙記載(一八)の昭和四七年八月三一日及び同(二一)の同年一〇月六日に病院で怪我の治療のため職場を離脱したものであることが認められるけれども、被告の就業規則六条二二号(乙第七号証)に違背し上司の許可を受けなかったものであるから、それを正当化することはできない。」を加える。
17 同六二枚目表七行目の「妨害し」から同八行目の「おいて、」までを「妨害するので、見かねた土屋主任が、素材倉庫入り口前において、原告をなだめて職場に戻そうと両手をかけようとしたところ、原告はその手を払いのけてその前額部を殴打したうえ、さらに仕事に就こうとしない原告に対し「仕事しないなら帰れ」と言って押し戻そうとした」と改める。
18 同六三枚目表一行目の「成立に」から同三行目の「がある。」までを「前記甲第一四号証、成立に争いのない甲第一一号証により真正に成立したものと認められる甲第二六号証中にはこれに沿う部分があり、原告が左前胸部、左背部打撲等の傷害を負った旨の同日付の診断書(甲第三号証)も存在する。」と改める。
19 同裏三行目の「前記」から四行目の「できず、」までを「原告の主張に沿う前記甲号各証は俄に信用し難く、甲第三号証の診断書記載の怪我も、原告が右に認定のとおり菅野課長やガードマンに対し体当たりなどした際に生じたものと推認されるから、」と改める。
20 同六四枚目裏末行の「原告は、」の次に「前記第三、二、3に認定のとおり、」を加える。
21 同六九枚目表一行目の「行為は、」の次に「別紙記載(二〇)については四条一項、六条二二号、九三条一二号、九四条一二号、その他は」を加える。
三 控訴人の補足的主張について
控訴人は、被控訴人が解雇事由として主張する暴言、暴行等の所為は、被控訴人が昭和四七年春闘当初から全金本山に対して強硬姿勢をもって対決する方針で臨んできたこと等の反映であるなどと主張するけれども、そもそも被控訴人が右春闘当初から全金本山に対しその主張のような方針で臨んでいたことを裏付けるに足りる事実は認められない。
すなわち、控訴人指摘の質問書の提出は、原判決四八枚目表三行目から五一枚目表四行目までに説示のとおり全金本山の賃上げ要求やその他の要求事項を検討するため説明を受ける必要があったが、当時団交の席上で説明を受けることが困難な状況であったことから、取り敢えず右質問書によってその説明を求めようとしたものであり、しかも従組に対しても同時に質問書を提出しているのであるから、その提出が全金本山に対する悪質な団交引き延ばし策であるとか、敵意の表明であるとは到底認め難く、したがって、それが被控訴人の強硬姿勢の表れであるということはできない。
被控訴人の申し入れた団交ルールにしても、被控訴人には全金本山と従組の二つの組合があって、同時に並行して団体交渉することが事実上不可能な状況であったことから、両組合を同等に扱うには団体交渉の日を被控訴人の申し入れのように奇数日は全金本山、偶数日は従組というように振り分ける必要があったものであり、その他の提案にかかる団交ルールも、既に慣行として確立していたものであって、昭和四七年四月二七日に被控訴人と全金宮城地本との間でなされた団体交渉においても、従来の右団交ルールが確認されたに過ぎないことは(証拠略)によって認められるところであるから、控訴人主張のように被控訴人が一方的に団交ルールを押し付け、団交拒否を図ったものということはできない。
また被控訴人がガードマンを導入せざるを得なかった経緯事情、被控訴人が地労委からガードマン撤去の勧告を受けたにもかかわらず、ガードマンを常駐させ、昭和四七年一〇月二日警備課を新設し、そのガードマンの一部を警備員として雇用した事情等は原判決五一枚目裏五行目から五七枚目裏四行目に認定のとおりであって、これに当審で証拠調べした前記(証拠略)等をも合わせると、右ガードマン導入後においても、当時の全金本山組合員は、所定の手続を経ず被控訴人に無断でかつ警告を無視し外部の者多数を構内に連れ込むなどして構内中央通路等でデモや集会を行い、デモに際しては管理職やガードマンに体当たりするなど連日のように違法、不当な行為をなしていたことが認められるのであり、被控訴人は、これに対処して、会社構内の秩序を維持回復し、職制や従組組合員の身体の安全を確保する等のために、右ガードマンを常駐させるなどの措置を取らざるを得なかったものであることが認められるから、右措置は誠にやむを得ないものであったということができる。
そして、ガードマンが全金本山組合員に暴行を加えたことがあったとしても、それは、全金本山の違法な出入荷拒否体制を排除しようとした際、あるいは右組合員の違法なデモ行進等を制止しようとするガードマンに対し同組合員が体当たりを加えたため小競り合いとなった中でなされたものであって、その責めの多くは全金本山組合員の側が負うべきものであったこと、被控訴人がガードマンによってその主張の仮処分に違背し、全金本山の正当な組合運動を圧殺しようとしたものと認め難いことは、前記二、11、12に説示のとおりである。
なお(証拠略)の各地方労働委員会命令書記載の認定判断は、以上の認定判断と一部異なるけれども、当裁判所とは異なる証拠調べの結果を前提とするものであるから、右認定判断を覆すに足りない。
以上検討したとおりであって、被控訴人は、昭和四七年春闘当初から強硬姿勢をもって全金本山と対決する方針で臨んでいたものではなく、全金本山ないし同組合員等の違法、不当な組合活動等に対応して強硬姿勢とみられるような措置を取らざるを得なかったものというべきである。
しかも、原判決六〇枚目表一行目から六六枚目裏二行目に認定のとおり、本件解雇事由である暴言、暴行等の所為の多くは、その態様等からして、全金本山に対する被控訴人の強硬姿勢に対する反映であるとか被控訴人の組合運動圧殺等に対する抗議行動であったとは認め難いものであり、それらの抗議行動としてなされたものと見得る場合であっても、勤務時間中に職制の注意を無視し、社会通念上許容し得る限度を著しく超えてなされたものであって、もとより正当な組合活動や争議行為の一環としてなされたものと認めることができないものである。
そうだとすると、本件解雇が、控訴人主張のように、被控訴人の強権的労務管理に抵抗する控訴人を嫌悪してなされた不当労働行為であるとは到底評することはできず、また解雇権の濫用とも認められないことは、原判決七七枚目表八行目から同裏一〇行目までに説示のとおりである。
四 よって、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないので、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川良雄 裁判官 山口忍 裁判官 佐々木寅男)